子供さんに生じる足関節の骨折中で、比較的多くみられるのは、
「腓骨(ひこつ)遠位骨端線損傷」です。
足を捻ったときは、一見足の捻挫のように思いますが、
痛みや腫れが強くて、
レントゲンを撮ったら外くるぶしが骨折していたというケースがよくあります。
小児の年代で生じる足首の骨折では、腓骨遠位骨端線損傷のような骨折型を呈しますが、
成人に生じた足首の骨折型と比較すると、特徴的な違いがあります。
このページでは、腓骨遠位骨端線損傷をご説明すると共に、成人の骨折との違いについてご説明します。
上の図の赤丸部分のところが痛みます。
足関節のレントゲン写真の写り方の違い
小児の足関節をレントゲン写真で観てみると、腓骨と脛骨には骨端線という成長軟骨線があります。
その部分は軟骨でできているので、外力に弱い組織です。
成長するにつれ、骨端線は閉鎖していきますが、
だいたい14~15歳ぐらいには骨端線は消失していきます。
成人の足関節をレントゲン写真で観てみると、完全に足関節はほぞ穴構造が出来上がり、
腓骨と脛骨で作られた溝に距骨が収まっています。
骨折型の違い
小児の場合
上の図のように、腓骨の骨端線の部分が開いてしまう骨折型があります。
これを腓骨遠位骨端線離開といいます。
骨端線のすぐ近くの骨が一部分かけて骨折してしまうこともあります。
距骨と腓骨を結ぶ靭帯の付着部で腓骨の端がはがれてしまう骨折型があります 。
靭帯の付着部は 軟骨の成分が多いので、骨片が小さく、
レントゲンで確認しづらいこともあります。
成人の場合
上の図のように、腓骨の端が横に折れてしまう骨折型があります。
この場合は骨折している面が安定するので、
ギプスなどで治療することで治せる場合が多い骨折型です。
この骨折型は左の小児の場合とよく似ています。
靭帯の付着部はしっかりとした骨の成分なので、
レントゲンではっきりと確認することができます。
成人の場合、さらにひねるような力が足にかかった場合に、
腓骨が斜めに折れてしまう骨折型があります。
この骨折型は足関節が変形してしまうような大きなずれがある場合は、
手術に至るケースもあります。
当院ではこういった骨折を主にギプス固定療法で治していきます。
まず、自然に足を垂らした状態を作ります。
この方が足関節周囲の筋や靭帯にストレスがかからず、
骨折部分を安定した状態で保てるからです。
ギプスを巻く範囲は左の写真の通りです。
腫れが引くことも踏まえて、
何回かギプスの巻きなおしを行います。
固定期間は3~4週間が通常で、
骨折部分が不安定であると判断したら、
6週間行うこともあります。
以下で実際の症例をご覧ください。
小児の場合
左の写真は12歳の女の子のものです。
段差を飛び降りて足首をひねり、怪我をしてすぐに来院されました。
見た限りでは、捻挫とよく似た場所に腫れと痛みがあります。
左の写真の赤矢印が怪我をしている部分で、水色の矢印の先が正常な部分です。
二つの矢印の先の部分を比べてみると、違いがわかります。
左の写真は7歳の女の子が椅子から飛び降りて、
足をひねったということで、来院された時の写真です。
赤丸で囲んだ部分が腫れているのがわかります。
外側から見ると、くるぶしのあたりが腫れていて、
赤矢印の先が示している部分に痛みがあります。
一見、皮下出血もなく、
腫れ方もさほど広い範囲で
広がっているわけでもないので、
ねんざではないかと思いましたが、
歩き方や、押さえたところの痛みの程度から考えると、
骨折の可能性も考えられました。
レントゲンを撮ってみると、
一見何もなさそうな様子です。
でも、角度を変えてレントゲンを撮ってみると、
赤い丸で囲んだ部分に、
三日月形の骨片が見つかりました。
受傷して間もないですし、
小さなお子さんなので、
ギプス固定をすれば骨がくっつくものと判断しました。
ギプス固定をしてから、
1か月半の時点でレントゲンを撮ると、
左の写真の様に骨がちゃんとくっついていました。
うまく完治できた例です。
10歳の男の子、足をひねったということで
来院された時の最初の写真です。
赤い丸で囲んだ部分が、腫れているのがわかります。
外側から見てみると、
くるぶしの周りに薄い紫色の皮下出血のあとが
見受けられます。
単純な捻挫ではなくて、
ひょっとすると腓骨の端が折れている可能性が
考えられます。
レントゲンを撮ってみると、
正面から見た写真では、赤丸の部分に骨折の所見は
見られませんでした。
むしろ、反対側の方に3年前に怪我をした時の
骨折片が見られました。
角度を変えてレントゲン写真を撮ってみると、
腓骨の端に三日月形の骨片が写っていました。
さらにエコーを撮ってみました。
3年前に骨折した足首の骨片は、
くっつかずにそのままになっていることがわかりました。
しかし、本人はまったく痛みを訴えることなく、
クラブ活動もできていました。
今回ひねった方の足のエコーは、
小さな骨片が赤矢印の先に写っており、
周辺が皮下出血によって、黒く写っていました。
彼もギプス固定を1カ月して、経過を見ました。
骨は完全にはくっつきませんでしたが、
痛みもなく、クラブにも無事に復帰できました。
成人の場合
今度は成人の場合の腓骨の骨折です。
赤矢印の先にうっすらと骨折線があります。
外くるぶしを押さえると痛みもありました。
角度を変えてレントゲンを撮ると、
明らかに腓骨の間に開いている部分が見えます。
(赤矢印の先)
この方はギプス固定を4週間行いました。
4週間後のレントゲン写真です。
骨折部分はわからないぐらいになっており、
骨がついていることがわかります。
この方も成人の骨折です。
斜めに骨折線が入っているのがわかります。
しかも少しだけ段差があることもわかります。
真正面からのレントゲンでは、それほどずれがあるようには見えません。
足の関節のほぞ穴構造も保たれている様に見えます。
そこで、ギプス固定療法を試みました。
ただし、ギプス固定期間中最初の1~2週間は体重を かけないで、
松葉づえで体重を足にかけずに歩いていただくことを守っていただきました。
体重をかけてしまうと、腓骨の骨折部分が斜めになってるために、
ずれが増強してしまうことが考えられるので、
松葉づえで体重を足にかけないようにしていただくことが大切なのです!
固定後1か月のレントゲンです。
徐々に骨折部分の骨がわいてきて、
骨折部分が埋まってきていることがわかります。
骨のずれも以前と変わっていません。
同じ日に角度を変えて撮ったレントゲンです。
正面から見てみると、骨折部分がほぼわからないぐらいになっています。
この時点でギプスを取り外しできるものに変えて、
体重をかけて歩いてもいいことになりました。
固定後2カ月たった時点のレントゲン写真です。
骨折部分は完全に埋まっています。
リハビリをすることで、足の動きも良くなり、
日常生活でも全く支障はありません。
今度は、68歳の女性です。
玄関の段差で足を踏み外して、
足首をひねり、来院された時の写真です。
赤矢印で示している先に、
押さえると強い痛みが出ます。
くるぶしの周りも腫れています。
レントゲンを撮ってみると、
少しくるぶしの骨に段差があるようにも見えますが、
骨折線がはっきりと見えない状態です。
そこで、エコーで観てみることにしました。
すると、左側の健側はスムーズで一連のつながりが見えますが、
右の患側には、赤矢印の先端部分に
段差が生じて、連続性が途切れています。
この画像所見から、骨折と判断し、
1か月のギプス固定をしました。
その後、無事に完治し、
日常生活も問題なく過ごされています。
以上のように、腓骨骨折は小児と成人では違いがあることがお分かりいただけたと思います。
この骨折の治療で大切なのは
まず、腓骨骨折であることを見逃さずに、
できるだけ早い段階できちっとギプス固定をすることです。
ギプス固定をきっちりとしておけば、
ほとんどの場合骨は癒合します。
かなりの重症で無い限り手術に至ることは稀です。
腫れて痛みもあるし、歩きづらいという場合には、
単なるねんざと過信せず、
診察を受けてみられることをお勧めします。