疲労骨折の多くは、中足骨、もしくは下腿の骨に見られることが多いのですが、
踵の骨でも疲労骨折をおこすことがあります。
下の絵で示した赤丸で囲った部分が、歩行時に体重をかけると痛み、
ひどい場合は、踵に体重をかけることすらできない場合があります。
踵の骨の衝撃の加わり方などによって骨折の仕方は3つに分けられます。
Ⅰ型
骨折線が踵骨に対して
ほぼ縦に入る タイプの骨折です。
スポーツ選手に多い骨折のタイプです。
Ⅱ型
骨折線が踵骨に対して
やや斜めに入るタイプの骨折です。
高齢者に多い骨折のタイプで、
骨粗鬆症が基盤にあり、
発症すると考えられています。
Ⅲ型
骨折線が踵骨に対して
ほぼ水平に入るタイプの骨折です。
このタイプは床からの強い
衝撃の繰り返しによって発症すると
考えられています。
以上のことから、過度のスポーツによって生じる疲労骨折は主にⅠ型であると考えられます。
そこで、発生メカニズムについて以下で御説明します。
足の裏全体に体重が乗る仕組みは、
上図のように上から来た力が足の甲にある舟状骨と呼ばれる骨から力が
足の指の方と 踵の方にむかって力が分かれていきます。
土踏まずの部分で衝撃が吸収されて、歩くなどの衝撃では、踵に強い力がかかることはありません。
ところが、繰り返し強い衝撃が床面からかかると、
その反作用は踵の接地部分と足の親指の付け根の部分にかかります。
運動時には、上の2つの条件に加えて、
アキレス腱や足底腱膜によって踵の骨が両方向へ引っ張られて、
×印がついた部分に相反する力でストレスがかかり続けます。
踵の骨は丈夫な骨で高い所から落ちたりしない限りふつうは折れませんが、
いわば、金属疲労の様に、継続してストレスがかかり続けることによって、
徐々に弱くなり折れてしまいます。
実際に起こった事例を以下では御紹介します
〜症例1〜
こちらのレントゲンは15歳の野球部所属の男性です。
1か月ほど前から思い当たる原因もなく、右の踵の痛みが発生しました。
痛いながらも練習ができていたので、放置していましたが、
全力疾走したときにひどい痛みを覚えたので、御来院になりました。
向かって左側のレントゲン写真(患側)と向かって右側のレントゲン写真(健側)を比べてみても、
この時点での違いは見られません。
しかし、踵骨を圧迫すると強い痛みを訴えたので、
疲労骨折を疑い、足底板を処方し、練習量を減らすように指導しました。
10日後にレントゲンを再び撮ったところ、踵骨の後ろの方に白い帯状の線が出てきました。
つまり、この部分にストレスがかかって、疲労骨折になったと判断しました。
この時点では、軽い痛みに変わっていて、体重をかけてもさほど気にならないぐらいに回復していたので 、
足底板を処方しながら練習に徐々に復帰していきました。
〜症例2〜
左の写真は15歳の野球部所属の男性です。
両方の踵が痛くて御来院になりました。
両方の踵の×印がついている部分に痛みがあり
すこし、腫れていました。
踵を下から叩くと、強い痛みがありました。
レントゲンをとたところ、初めははっきりとした骨折の所見はありませんでした。
反対側を撮っても、左右の状態の違いもありませんでした。
足底板を処方し、練習量を減らすように指導しました。
10日後、再度レントゲンを撮ったところ、やはり白く帯状の線が出てきて、疲労骨折であると判断しました。
反対側の方にも、同じ白い線が出ていて、ほぼ同じ時期に疲労骨折が起こっていたと判断しました。
足底板療法で、徐々に練習に復帰していきました。
〜症例3〜
こちらのレントゲンは32歳男性です。
3週間前よりジョギングを始めてから痛みが出始めました。
3日前から痛くて歩けなくなり、御来院されました。
急に運動を始めてから踵が痛くなっているので、
ストレスがかかっているであろうと考えて、
足底板を処方し、練習を控えるように指導しました。
3週間後、再びレントゲンを撮ると、右の踵にはっきりと白い帯状の線が出てきました。
足底板療法で徐々にジョギングに復帰されました。
〜症例4〜
34歳の男性です。
1ヶ月前から、スポーツとしてジョギングを始められたのですが、
2週間ぐらい前から、走っている途中で左踵の痛みを覚えたので、来院されました。
少しずつ痛みは軽減していましたが、
いつまでも気になるので、
病院で診てもらおうと思われて来院されました。
こちらの写真は初診時のものですが、左の踵が少し腫れていました。
しかし、患部の熱感や皮下出血などはありませんでした。
別の角度から見た写真です。
左踵の内側に押さえると痛みが強く出るところがありました。
赤矢印の先にある黒の×印のところが痛みの中心部分でした。
この時点で、踵骨に何らかの異常があるのではないかと疑いました。
赤い丸で囲んだ部分が、押さえて痛みのあった部分です。
レントゲン写真で見てみると、白く線がはいったように映っていました。
このことから、踵骨疲労骨折のⅠ型と考えられました。
当日はヒールパッドを処方して様子を見ました。
以上の4名の患者さんに共通する治療法は、
下の写真の足底板です。
ヒールパッドと呼ばれる足底板ですが、踵の衝撃を吸収する役割と、
踵を斜めに上げることでアキレス腱のけん引力を緩める役割があります。
10日から20日ぐらいすれば、痛みもやわらぎ、スポーツにも復帰できます。
踵骨の疲労骨折は上の4つの症例の様に、
繰り返し運動を行うことで発生します。
踵の部分が痛くなるので、すぐにわかります。
スポーツを休止することで、完全に治ります。
どんな病気でも同じですが、早期発見、早期治療が早期に完治できる鍵です!
スポーツをしていて踵の痛みを覚えた場合には、
早い目に足の専門医まで御相談ください!