乳がんのホルモン治療と腱鞘炎との関連(バネ指、ドケルバン病、手根管症候群)

乳がんは、女性に発症するがんで、一番多く、2015年の患者数は全国で89,400名と推定されています。
(国立がんセンターの統計データ参照)

以下の表は、2015年のがん統計の予測を行った表で、
上位5部位がどれぐらいの割合を占めているのかを示したものです。

この表によれば、女性のがんは、圧倒的に乳がんが多いことがわかります。

乳がんのほとんどの患者さんは、治療としてホルモン療法がおこなわれます。

乳がんの治療薬(抗がん剤)による副作用として、脱毛・倦怠感などは良く知られ、

適切な治療手段が講じられていますが、
ホルモン治療による手指及び、手関節部の腱鞘・滑膜炎がもたらすバネ指、ドケルバン病、手根管症候群などは未だに知られておらず、適切な治療がなされていないように思われます。

当院では、平成14年から平成28年までに、約2200指のバネ指の手術統計及び、

ドケルバン病と手根管症候群の手術統計では

以下の統計で示したように

これらの疾患は50歳以降の更年期に非常に多く発症しており、

女性ホルモンの低下と密接な関係があることを示唆していました。

ばね指の手術統計


ドケルバン病の手術統計


手根管症候群の手術統計


よって、女性ホルモンの分泌を強力に抑制するホルモン治療がおこなわれる乳がんの患者さんでは、
バネ指、ドケルバン病、手根管症候群の発症の確立が高くなることを示唆しています。

実際、当院においても、ホルモン治療を開始された乳がん患者さんが
指のひっかかり、手首の痛み、手指の痺れなどを訴えて来院されています。

以下で、実際の症例(ドケルバン病)をご覧いただきたいと思います。

42歳の女性です。

両手関節の痛みを訴えて来院されました。

右手は2ヵ月前より痛く、左手は1か月前より痛いとのことです。

現在は、服の着脱が辛いとのことです。

こちらの写真は右手の初診時の外観です。

赤色矢印で示した部分に痛みを訴えておられます。

こちらの写真は、左手の初診時の外観です。

右手と同様の赤色矢印の部分に痛みを訴えておられ、
写真のように親指を伸ばす動作で痛みが出るとのことでした。

こちらのエコー画像は、右手関節部分のものです。

痛みを訴えている部位を撮影したところ、
長軸画像では、ピンク色の矢印の部分で、腱鞘が肥厚している像が確認できます。

短軸画像では、赤色矢印で示した長母指外転筋の腱鞘が肥厚していることがわかります。

問診で、伺うと、5か月前より乳がんの治療で、
ホルモン抑制剤を服用し始めたとのことでした。

以上のことから、乳がん治療によるホルモン抑制剤が女性ホルモンの低下を引き起こし、
ドケルバン病(腱鞘炎)になっていると示唆したため、
症状の強い右ドケルバン病の手術を行いました。

右手の症状が1週間後には楽になったという事もあり、
左手の手術も希望されたため、左ドケルバン病の手術も行いました。

今回、ご紹介したのはドケルバン病の症例でしたが、
実際は、乳がんのホルモン治療をされていてバネ指や手根管症候群になっておられた

患者さんもいらっしゃいました。

もし、乳がんの患者さんで、指の痛みを伴うばね現象や手首を動かした時の痛み、

手指のしびれなどが起こったときには、
我慢せずに、近隣の整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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