高齢者が、
「腰が痛い」、「背中が痛い」
という症状の中に、
胸・腰椎圧迫骨折があります。
この骨折は、
骨粗鬆症が基盤になっています。
脊椎の骨が、何もしていないのに折れたり、
布団を持ちあげるとか、くしゃみをするなどといった軽い外力で折れてしまう骨折です。
「圧迫」という表現でもわかるように、
腕や足で見られるような骨折の形状ではなく、
空き缶が潰されるような感じで骨が折れてしまう事をいいます。
このページでは、
圧迫骨折についてご説明し、
その治療法などをご紹介したいと思います。
圧迫骨折が起こる原因
圧迫骨折は、骨粗鬆症が基盤となり起こることがほとんどです。
脊椎は積木が重なるような形でいくつもの椎骨が重なって構成されています。
その椎骨が骨粗鬆症によって強度を失い、徐々に体を支える力を失ってきます。
椎骨が強度を失うと言っても、
その原因には2つの原因があります。
以下はその2つの原因について述べたものです。
1つ目の原因は「骨密度」にあります。
従来バランスよく保たれている破骨細胞と、骨芽細胞の骨代謝に変化が生じ、
骨を構成する成分であるカルシウムが足りなくなってきます。
以下が、そのイメージ図です。
2つ目の原因は、「骨質」にあります。
骨質とは、建物に例えると、鉄筋の部分に当たります。
たとえセメントをたくさん塗ったところで、鉄筋がさびていては、十分な強度が得られません。
それを説明したものが、下の図です。
以上のような原因から、骨がもろくなり、軽微な外力で椎骨が折れてしまいます。
胸・腰椎圧迫骨折の症状と、その弊害
胸・腰椎圧迫骨折が生じたときには、
まず背部、腰部の痛みがあります。
急性期は、体を動かすと激痛が生じ、
徐々に痛みは和らいできますが、
後に慢性化してしまうことがほとんどです。
また、胸・腰椎圧迫骨折は他の骨折とは違って、患部の痛みだけでなく、
体のさまざまな部位に弊害が生じることが問題になります。
容姿
悪化。低身長、猫背。腹部の突出。
股関節・膝関節の屈曲変形。
活動性・精神症状
出不精、自信喪失、鬱。
運動器症状
肩こり、腰痛、下肢筋肉痛。
呼吸器症状
肺活量の低下による息ぎれ。
風邪をひきやすく、治りにくい。
消化器症状
食欲低下。
たくさん食べることができない。
食事を楽しめない。
胸焼け、
胃の痛み=逆流性食道炎(胃液が逆流)。
栄養不良。
健康寿命の短縮
歩行困難、
転倒による骨折から要介護→車椅子→寝たきり→短命。
予防と悪化防止によって生活が楽しめ、
長生きができる!
以上のように脊椎圧迫骨折によって、
姿勢が変わることによって、体全体の問題が生じることになります。
骨粗鬆症の悪化を防止することにより、
日頃の生活がより楽しくなり、
長生きができるといったことにつながってきます。
脊椎圧迫骨折はこのように折れます!
圧迫骨折は尻もちをついたり、
布団を持ち上げた際に起こる場合があります。
しかし、何もしていないのに、
腰の痛みがとれない場合、
以下のレントゲンのように、
少しずつ椎骨がつぶれていくように圧迫骨折を起こすこともあります。
上の図は、
患者さんが初診時に腰の痛みを訴えておられたので、
レントゲンを撮りましたが、異常は見られませんでした。
しかし、4か月後に腰痛が続いていたため、
もう一度レントゲンを撮ると、
第3腰椎の圧迫骨折が見つかりました。
このことから、腰痛の原因は、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折であったという事がわかりました。
高齢者の腰痛のほとんどは、
脊椎圧迫骨折である場合が多いと言っても過言ではありません。
脊椎圧迫骨折を甘く見ると…
脊椎圧迫骨折が起こって、
痛みが取れたからと言って、
骨粗鬆症に対しる治療をきちんと行わないと、
以下の図のように他椎体でも脊椎圧迫骨折が生じてきます。
上の左の図は、1つの椎体だけが圧迫骨折を起こしているイメージ図です。
骨粗鬆症の治療を行わなければ、右の図のように他の椎体も圧迫骨折を起こす可能性があります。
複数の椎体がつぶれてくると、身長が低くなり、容姿も変化します。
上の図のような脊椎圧迫骨折による容姿の変化が起こらないように、
骨粗鬆症の治療を行う事が大切です。
脊椎圧迫骨折の治療はどうするの?
脊椎圧迫骨折による痛みに対する治療の一つに固定療法があります。
当院では、以下の2つの固定を主に行っております。
固定の選択として、
痛みが強い場合には左の写真の
「体幹ギプス」による強固な固定を行います。
体幹ギプスは当院スタッフがその場で作成できるので、
即座に固定ができるので、痛みを早く緩和することができます。
しっかりと体幹が固定されているので、患部が安定し、痛みなく立ち座りができるようになります。
右の写真は
「ダーメンコルセット」と言います。
これは義肢装具専門の方が患者さんの体を採型し、作成します。
痛みがそれほど強くない場合や、
体幹ギプス固定を行った後にもう少し固定をする必要性がある場合、
ダーメンコルセットに切り替えます。
ダーメンコルセットは体幹ギプスに比べ軟らかいため、生活しやすいのが特徴です。
このような固定を行う事で、脊椎圧迫骨折が起こっても、入院せずに外来で経過を見ることができます。
入院は痛みに対する処置もできる上、診てくれる人がいるという安心感があります。
しかし、その反面、非日常的な生活となってしまうため、
日頃使っていた筋肉が衰えてしまうという面もあります。
すると、退院した時には痛みは和らいでいても、下肢筋力や基礎体力が衰えてしまう可能性があります。
当院では、できるだけ入院をすることを回避して、普段の生活が送れるように配慮しています。
以上の治療はあくまで脊椎圧迫骨折による痛みをとる方法です。
骨粗鬆症が原因で起こる脊椎圧迫骨折の根本的な治療は、
骨を丈夫にするための投薬治療と、運動療法が大切です。
現在、投薬治療はさまざまなものがありますので、医師にご相談ください。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
66歳の女性です。
腰の痛みを訴えて来院されました。
1週間前、ベットを持ち上げたときに腰が痛くなったそうです。
痛みが強く、2~3日まともに動くことができず、腰の痛みが引かないとのことです。
こちらのレントゲン画像は、
初診時のものです。
第11胸椎部(赤で囲んだ部分)に圧迫骨折像が確認できました。
痛みが強いため、体幹ギプス固定を行い、外来にて治療を行う事にしました。
こちらの写真は初診時当日に作成した体幹ギプスです。
少し動くだけで腰の痛みが強かったのですが、
体幹ギプス固定をすると痛みは半分以下になったということで、自宅に帰っていただきました。
こちらのレントゲン画像は初診時より1ヶ月後のものです。
前回のレントゲン画像とほぼ変わらず、痛みも軽減していたため、ダーメンコルセットへ切り替えました。
こちらのレントゲン画像は、
初診時より2ヵ月後のものです。
初診時のレントゲン画像と比較しても、
椎骨の圧潰は進んでいませんでした。
この方は、同時に骨粗鬆症の投薬治療も行い、2ヶ月後の時点で、腰の痛みはほぼ消失していました。
〜症例2〜
83歳の女性です。
腰の痛みを訴えて来院されました。
昨日の朝、ベランダで尻もちをつき、腰が痛くなったそうです。
腰の痛みのため、寝起きがかなりつらいそうです。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
赤色矢印で示した部分の第1腰椎に圧迫骨折像が確認できました。
この骨折が新鮮例かどうか確かめるために、1年前のレントゲン画像と比較しました。
1年前のレントゲン画像には、圧迫骨折像はなかったため、
今回の腰の痛みは新鮮の圧迫骨折であると考えました。
痛みが強いため、体幹ギプス固定を行いました。
体幹ギプス固定後は、訴えていた寝起きでの腰の痛みは楽になったとのことでした。
こちらのレントゲン画像は、初診時から1ヶ月後のものです。
椎骨の圧潰は進んでおらず、痛みがかなり軽減しているため、ダーメンコルセットに変更しました。
同時に、骨粗鬆症の投薬治療も行いました。
〜症例3〜
78歳の女性です。
胸背部の痛みを訴えて来院されました。
約3週間前より、思い当たる誘因もなく痛みがあるとのことです。
こちらのレントゲン画像は、初診時のものです。
痛みを訴えている場所は、赤色で囲んだ第6胸椎部で、棘突起に圧痛が認められました。
この方は、骨粗鬆症であったため、
何らかの圧迫骨折の所見がレントゲン画像でわかるのではないかと思っていました。
しかし、レントゲン画像では圧迫骨折の所見は見つかりませんでした。
そこで、レントゲン画像に写らない圧迫骨折もあるので、MRI撮影を行う事にしました。
こちらの写真は、第6胸椎を中心に撮影したMRI画像です。
赤色矢印で示した
第6胸椎部にT1低輝度、T2高輝度の変化が
認められたため、
胸背部の痛みは、第6胸椎圧迫骨折の痛みという事がわかりました。
レントゲン画像では圧迫骨折像がわからなくても、
身体所見から、脊椎圧迫骨折を疑う場合には、
MRI撮影をおこなって、早期に発見することができます。
脊椎圧迫骨折は、急性期は痛みをとることが最優先になりますが、
根本的な治療は骨粗鬆症に対する投薬治療が最も重要です。
当院では、少しでも筋力を落とさず、寝たきりにならないようにするために、
痛みの強い場合は体幹ギプス固定を行って痛みを和らげることで、
自宅でお過ごしいただけるようにしています。
また、その間のリハビリは、
体が思うように動かせないないために生じる気持ちの落ち込みなどを軽減するために、
治療を行っていただけるように配慮しています。
長く続く腰や背中の痛みでお困りの方は、
このような骨折が考えられるので、
お近くの整形外科へご相談していただければと思います。