ボールを使った競技中、ボールが指先から当たってつき指のような状態になったり、
ドアで指を挟んだりして、指を骨折するケースがあります。
この場合に、多いとされるのが「中節骨骨折」です。
この骨折は、一見つき指のように変形の少ないものもあれば、
周辺の腱の作用で引っ張られることで、くの字に変形してしまうものもあります。
このページでは、中節骨骨折に対しての固定方法を中心にご紹介していきたいと思います。
中節骨とはどこの骨ですか?
上の図は、指の骨の並びを示したものですが、示指から小指にかけて中節骨は存在します(赤色で囲んだ骨)。
中節骨骨折のタイプ
上の図は中節骨が折れた部位によって、変形の仕方が違う事を表したものです。
指を曲げる作用を持つ浅指屈筋腱は中節骨に付着しています。
この浅指屈筋腱の牽引作用によって、中節骨は上記のような2つの変形の型があります。
1つ目は左の図のように、浅指屈筋腱の付着部よりも近位(赤矢印より右側)で骨折した場合は、
中節骨はへの字のような変形をします。
2つ目は右の図のように、浅指屈筋腱の付着部よりも遠位(赤矢印より左側)で骨折した場合は、
中節骨はV字のような変形をします。
このように、骨折の部位によって、指の変形に合わせて固定肢位を変え、指がなるべく元の形になるように固定を行います。
中節骨骨折の治療における注意点
上の図は、指を曲げたときの爪の向きを示したものです。
通常は、それぞれの指が手首の内側に向かうような構造になっています。
しかし、中節骨骨折において、回旋変形が生じている場合には、その指だけ違う方向を向いてしまいます。
これを「オーバーラッピング・フィンガー」と言います。
固定する際に、指を曲げて、このような変形が生じていないか、
あるいは、固定をして後に、正常な指の向きになっているかどうかを確認します。
以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。
10歳の男の子です。
右示指第1関節(DIP関節)の痛みを訴えて来院されました。
昨日、ソフトボールをしていて、補給の際、
ボールが示指に当たって、受傷されたそうです。
左の外観写真では、赤い矢印の部分に圧痛と腫れが認められました。
レントゲンを撮影したところ、中節骨(赤矢印の部分)で、骨折が確認できました。
腫れが強かったので、可能な限り第1関節を曲げて固定を行いました。
左のレントゲン写真は、受傷後3週間経過した時のものです。
骨折していた赤色矢印の部分で、骨折線がなくなり、骨癒合が認められました。
55歳の男性です。
右示指の痛みを訴えて来院されました。
受診当日、車のドアに右示指が挟まれて、受傷されたそうです。
レントゲン撮影を行ったところ、赤矢印で示す中節骨の骨折が認められました。
この骨折は、下の模式図で示すように、
Vの字に変形する浅指屈筋より、指先の方(遠位)で骨折しているタイプでした。
中節骨がV字に変形しているタイプなので、
骨折部を元の位置に戻すために、
右示指を曲げた状態で、固定をするようにしました。
固定後、レントゲンを撮って確認してみると、
骨折した赤色矢印の部分が正常な位置に整復されていることがわかりました。
左のレントゲンは受傷1週間後のものです。
骨折部(赤色矢印の部分)では、良好な整復位が得られているのがわかります。
腫れが引いた時点で、緩んだ固定の手直しをこまめに行い、
この固定を合計3週間継続しました。
受傷後、4週間後のレントゲンです。
骨折していた中節骨が骨癒合していることがわかります。
60歳の女性です。
左中指の痛みを訴えて来院されました。
受診当日、荷物を縛るためのゴムについたフックが左中指に勢いよく当たり、
受傷されたそうです。
レントゲンを撮影したところ、
赤色矢印で示す左中指の中節骨に骨折線が認められました。
左の写真は、初診時の外観写真です。
良く見ると、他の指の爪の傾きに比べて、中指の爪の傾きが違います。
このことから、中指の骨折部に回旋転位があるとわかりました。
以上のことから、左の写真のような固定を行いました。
この固定の目的は、回旋転位を取り除き、
できるだけ拘縮が起こらないようにすることです。
その際の工夫点は以下の通りです。
工夫点① 骨折した中指を隣接する示指と環指で挟み、テーピング固定を行いました。
工夫点② 中指が伸ばせないようにギプスで壁を作りました。
工夫点③ 痛みの出ない範囲で指を曲げいただくようにしました。
以上のように固定を行った結果、中指の爪の傾きが、
隣接する他の指の傾きと同じになりました。
上の固定を行った後、レントゲンチェックをしたところ、
左の写真の赤丸で囲んだ部分でわかるように、
きちんと骨折部分が整復できていることが確認できました。
受傷1週間後のレントゲン写真です。
赤丸で囲んだ中指の中節骨は安定し、再転位などしていないことが確認できました。
左のレントゲンは、受傷3週間後のものです。
この時点で、ギプス固定を除去し、レントゲン写真を撮りました。
赤丸印で囲んだ中指の中節骨はきれいに骨癒合していることが確認できました。
左の写真は治療終了時点での外観写真です。
初診時に見られた回旋変形は無く、しっかり指を握りこむことができるようになり、
患者さんも非常に満足しておられました。
今回ご紹介した中節骨骨折はボールが当たったり、ドアに指を挟んだりすることで、よく起こります。
この骨折は、手術をせずに固定を行う事でたいていの場合、骨癒合を得ることができます。
つき指かなと思っても、痛みや腫れが強いときには、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。