斜頚とは色々な原因で頭部が体幹に対して斜位で固定されるものです。
小児にみられる斜頚は環軸椎回旋位固定といって一時的に斜頚位をとるものが多く、
治療を行えば、正常な位置に戻るとされています。
今回、このページでご紹介する筋性斜頚は、筋肉の拘縮によって生じるもので、
1歳半までに斜頚位が戻らなければ外科的な治療が必要といわれています。
病態や症状など、以下で詳しくご説明していきます。
筋性斜頚とは?
筋性斜頚とは胸鎖乳突筋の拘縮により、生じる斜頚のことです。
胸鎖乳突筋とは以下の図のように、耳の下あたりから鎖骨の根元に向かって伸びている筋肉です。
この胸鎖乳突筋が分娩時に引っ張られることで、筋肉が傷み、瘢痕組織が形成されます。
胸鎖乳突筋の拘縮が起こると、外観で首に腫瘤のようなものが確認できます。
これは分娩時にみられることから、分娩外傷という説もあり、
骨盤位分娩では、筋性斜頚が生じる頻度が少し高くなるといわれています。
筋性斜頸の症状
筋性斜頚の症状は、頚部の腫瘤や、顔が一方しか向くことができないという症状が出て、
来院されることが多く見られます。
以下の図のように、首にできる腫瘤と、傾いている顔の向きとは反対になっています。
たとえば、右側の胸鎖乳突筋に腫瘤があれば、あご先は左側に向いており、顔が右に傾いて見えます。
また、反対も同様、左側の胸鎖乳突筋に腫瘤があれば、あご先は右側に向き、顔が左に傾いて見えます。
どちらか一方だけに生じることがほとんどで、
腫瘤のある胸鎖乳突筋側には、首を回旋させてあご先を向けることができません。
また、時間の経過とともに、以下のような症状もみられるようになります。
頭部の変形が見られ、姿勢異常による脊椎の側湾もみられるようになります。
また、以下の図のように顔面にも変形が生じてきます。
筋性斜頚を放置していると、色々な体の部位に異常が出現してきます。
筋性斜頚の治療
治療は、新生児から乳児期(1歳6カ月ごろ)までは、基本的には自然治癒が期待できるため、
経過観察を行います。
経過観察中、どういったことを行うのかというと、
胸鎖乳突筋の腫瘤がある方から、ミルクをあげたり、あやしたりすることで
お子さんが自発的に向けない方向へ首を回旋するように促すことが大切です。
胸鎖乳突筋が硬くなっているからといって、マッサージをすると、
かえって悪化する原因となるので、マッサージは禁忌となっています。
しかし、それ以上(1歳6カ月以上)経過をみても、拘縮が明らかで、自然治癒が期待できない場合には、
できるだけ早期に手術を行った方が良いとされています。
平均的には、胸鎖乳突筋の索状化が明瞭となるのは、3歳前後であることが多く、
結果として2~5歳ごろに手術を行う事が多く見られます。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
9歳の女の子です。
斜頚位が気になるという事で来院されました。
出産後から、斜頚位があったそうです。
現在小学3年生で、ずっと放置していたそうです。
学校の検診で斜頚位を指摘され、近隣の病院を受診したところ、側湾症と診断されたそうです。
写真は初診時のものです。
顔が左側に傾いていることがわかります。
目も左側に垂れ下がっており、左の胸鎖乳突筋の部分に腫瘤を触知できました。
レントゲンは、初診時のものです。
頚を正面から撮影しているのですが、顔が左側に傾き、左肩も上に上がっていることがわかります。
レントゲンは、脊椎全体がわかるように撮影したレントゲン画像です。
背骨は湾曲し、まっすぐではないことがわかります。
以上のことから、筋性斜頚と診断し、それによる姿勢異常が出ているものと考えました。
この方は、9歳という事もあり、経過観察期間は過ぎていることから、
手術の適応と考え、大きな病院へ紹介となりました。
斜頚を呈する病気は、さまざまありますが、筋性斜頚は新生児期を過ぎると自然に治ることはありません。
頚の部分に腫瘤が認められたり、出産後より斜頚があるなどといったエピソードがあれば、
筋性斜頚の可能性があるので、
お近くの整形外科を受診されることをお勧めいたします。