足が痺れるという訴えの多くは、腰椎椎間板ヘルニアや坐骨神経痛という疾患などが原因として考えられがちです。
また、手の痺れは頚椎椎間板ヘルニアが原因であると考えられる場合が多く見られます。
しかし、上記のような疾患に当てはまらず、原因が分からないまま、
手足の痺れ感を訴えて来院される患者さんもいらっしゃいます。
そういった場合には、稀ではありますが、神経そのものに良性の腫瘍ができて、
それが原因で手足がしびれるという「神経鞘腫」と呼ばれる疾患があります。
このページでは「神経鞘腫」についてご覧いただきたいと思います。
神経鞘腫とは
「神経鞘腫」とは、末梢神経由来の代表的な軟部腫瘍です。
好発する年代は20~50歳の成人に多いとされ、
主に発生する部位は、四肢、体幹部、頚部の末梢神経だと言われています。
腫瘍と聞いて、ビックリされる方も多いかと思いますが、
良性腫瘍ですので、腫瘍を取り除けば、元の神経を温存したまま治ります。
MRIやエコー検査で、この疾患は診断ができます。
以下で、神経鞘腫の診断について見ていただきたいと思います。
1、MRI画像による診断
MRI撮影の目的は、腫瘍の大きさと位置関係を知ることです。
神経鞘腫は、神経走行に沿って卵円形の腫瘤として描出されます。
左の写真は、膝の裏にできた神経鞘腫のMRIです。
2枚の写真は、同じ部位を条件を変えて撮影したものです。
2、エコーによる診断
エコーでは、左の図のように神経鞘腫は描出されます。
腫瘍はエコーでは左の写真のように黒く写り、
その頭尾側に神経幹が存在します。
このように、エコー検査は
上記のような特徴的な画像が得られるので、
神経鞘腫と診断するうえで有効な検査です。
3、他の神経痛との鑑別はどうするのか?
では、他の疾患と鑑別するには、どういった点が違うのでしょうか?
足が痺れると言えば、主に腰椎椎間板ヘルニアや坐骨神経痛を思い浮かべます。
しかし、上の図のように腰椎椎間板ヘルニアの場合であれば、姿勢によって痛みに変化が見られます。
そして、椎間板ヘルニアの患者さんは、痛みを回避したいので、痛みのない姿勢をとる傾向が見られます。
また、腰椎椎間板ヘルニアであった場合には、上の写真のような足を上げるSLR テストを行うと、足に放散痛が出ます。
4、足根管症候群であると思っていたら、神経鞘腫であった症例
足が痺れるという原因には、足の絞扼性神経障害の一つである「足根管症候群」である場合も考えられます。
足根管症候群の多くは、左の解剖図の緑の丸の部分で圧迫を受けた場合、
右の写真のように、足の底の内側が痺れることが多く見られます。
しかし、下の写真のように、本来多いとされる痺れの範囲とは違う場合もあります。
この症例では、足根管症候群だと思って、
画像検査などを進めていった結果、実は神経鞘腫だということが判明しました。
この症例の詳細については、下記でご覧いただきたいと思います。
では、以下で実際の患者さんについて見ていただきたいと思います。
33歳の女性です。
左膝の痛みを訴えて、来院されました。
13年前に左膝半月板切除手術を受けておられました。
5年前から、痛みがあり、
膝の裏に腫れが見られたので、来院されました。
膝裏の腫瘤に可動性があり、
叩くと足趾に放散痛が認められました。
腫れていたこともあり、ベーカー嚢腫を疑って、エコーを撮ったところ、紡錘形の境界が明瞭な低エコー像が確認できました。
低エコー像の中に、高エコーが混在している画像がありました。
以上のことから、ベーカー嚢腫ではなく、
神経鞘腫を疑ってMRI 撮影を行いました。
上下のMRI 写真は、同じ部位を条件を変えて撮ったものです。
膝の裏に腫瘍があり、
前後の神経幹と連続性があるとわかります。
左の写真は膝の後ろから見た画像になります。
境界が明瞭な腫瘍が神経の走行に沿って存在していることがわかります。
神経鞘腫と診断し、手術を目的に入院施設のある病院へ紹介となりました。
47歳の女性です。
1年前から、左膝の裏が腫れ始め、
少しずつ大きくなってきていることが気になって来院されました。
押さえると、左足関節の外側が痺れると訴えておられました。
膝裏の腫瘤にエコー検査を行ったところ、
境界が明瞭で、前後の神経幹と連続性のある、
低エコーの腫瘍が確認できました。
神経鞘腫を疑って、MRI撮影を行ったところ、
膝裏に境界明瞭で、神経幹と連続性のある腫瘍が確認できました。(赤矢印の部分)
また、足の痺れる範囲と照らし合わせると、
脛骨神経の支配領域であることから、
赤丸印の部分で脛骨神経に連続する
神経鞘腫であるということが判明しました 。
この方も、手術を目的に入院施設のある病院へ紹介となりました。
51歳の男性です。
右小趾の痺れを訴えて来院されました。
特に誘因がなく、半年前から痺れがあり、
夜間にも痺れがあるという事でした。
腰の痛みは無く、歩行時の痺れの増悪も見られませんでした。
赤色矢印の部分を叩くと、右小趾の痺れが誘発されました。
右足を真横から見た写真です。
内くるぶしのやや後下方部に、叩いて痺れが増強するポイントがありました。
痺れの範囲は、左の写真の斜線部分です。
足底の神経の支配領域と比較すると、
外側足底神経の支配領域と合致することから、
左の足根管部で外側足底神経が圧迫を受けている事を疑って、
エコー検査を行うことにしました。
ガングリオンが原因で起こっている足根管症候群を疑い、
エコー検査を行いました。
足根管部に赤色矢印で示す、低エコー画像が確認できました。
しかし、単一な低エコーではなく、
低エコーの中に、白っぽい高エコー像も混在しており、
神経幹との連続性が見られることから、
神経鞘腫を疑い、MRI 検査を行う事にしました。
左の写真のMRIは、足を縦割りにスライスして、側面から見ている画像です。
上下の写真は、条件を変えて撮影した画像です。
赤矢印の部分で、境界明瞭で、
前後の神経幹と連続した腫瘍が確認できました。
以上のことから、神経鞘腫と診断し、
手術を目的に、入院施設のある病院へ紹介となりました。
44歳の男性です。
右示指(人差し指)の外側(赤色矢印の部分)の痛みを訴えて
来院されました。
3か月前より、触れると痛くて、腫瘤があると訴えておられました。
安静時痛や夜間痛もあり、日常生活に支障が出ておられました。
理容師さんなので、お仕事で鋏を持ったとき、
患部が鋏に当たり、痛みが出現するという事でした。
実際に鋏を持っていただくと、
左の写真のような鋏の持ち方をされるという事でした。
診断のため、冷水テストを行ったところ、
1分で痛みの再現が見られました。
お仕事の都合もあり、腫瘍を摘出した方が良いだろうということになり、手術を目的に、他の病院へ紹介しました。
後日、手術を行った病院から返答結果が送られてきました。
それによると、末梢神経の枝から発症した神経鞘腫が
神経血管束を圧迫し、痛みが出ていたという事でした。
左の赤矢印で示したものが神経鞘腫です。
大きさは約1cmありました。
手術後は、患部に触れても痛くなくなったという事でした。
手足が痺れるという場合、腰椎椎間板ヘルニアや頚椎椎間板ヘルニアなどが原因である事が多く見られますが、
今回ご紹介した「神経鞘腫」が原因となって手足が痺れている場合もあります。
見分けがつきにくい疾患ですが、こういった疾患もあるのだという事を念頭に置いて、
手足の痺れを診ていくことが大切であると思います。
今回、このページで取り上げたものと同じような症状がある場合には、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。