膝蓋骨骨折「装具を用いた治療例」

転んで膝を打った際、初めは打撲だと思って様子を見ていたところ、なかなか痛みが引かないと訴えて来院されるケースがあります。その多くは、自転車に乗って来られたり、近くだから歩いて来院される患者さんもあり、レントゲン写真を撮って初めて骨折とわかることがあります。

中でも膝蓋骨骨折は骨折部の転位が少なければギプスをせずとも治るケースがあります。

このページでは骨折部の転位が少ない膝蓋骨骨折についてご説明し、装具を用いた治療で骨癒合が得られた例をご紹介したいと思います。

膝蓋骨周辺の筋および腱

上の図は膝蓋骨周辺の組織を示したものです。膝蓋骨は上部に大腿四頭筋腱が付着し、下部は膝蓋靭帯が付着しています。膝蓋骨の周囲は骨膜と呼ばれる組織が存在し、骨の周りを覆うように存在しています。体重をかけると膝蓋骨には大腿四頭筋腱による牽引力が加わり膝関節を屈曲すると膝蓋骨は下方へ移動し、さらに大腿骨側へ引き寄せられる力が加わります。

上の図は膝蓋骨骨折をイメージした図です。赤い矢印で示した先にある赤いラインが骨折線と考えます。地面に膝を前面からぶつけた時に膝蓋骨骨折が生じることが多いのですが、骨折した部位がほとんど転位せず元の形状を保ったままの例があります。この場合、受傷時の外力の強さにもよりますが、膝を打つ程度の外力であれば打撲と勘違いするくらい膝蓋骨の形状はほとんど変わりません。骨折部の離開が少ないのは膝蓋骨周囲の骨膜下で守られていることが考えられます。

以上のような骨片転位がほとんどない場合、膝関節の深屈曲さえ制限できれば十分に骨癒合が得られます。

以下で実際に骨癒合が得られた患者さんを紹介します。

81歳の女性です。左膝の痛みを訴えて来院されました。

来院の前日に自転車に乗っていて転倒して左膝を打ってから痛みが生じて膝前面の腫れを認めました。また、写真にもあるように膝の屈伸は可能でしたが痛みが引かないのでレントゲン写真を撮りました。

上の写真は初診時の外観です。膝関節前面に擦り傷を認め、膝関節の腫脹と熱感も認めます。

上の写真は初診時のレントゲン写真です。側面からみると膝蓋骨の下部に骨折線を認めました。(左の写真)また、軸斜像でも骨折線を確認できました。

この方は立ち上がり動作時に痛みを訴えていましたが、屈伸動作が可能だったので、なるべく日常生活動作に支障をきたさないことを踏まえて装具療法を行いました。

その後の経過は上の写真で示すように、初診から2週間後と4週間後で比較しても骨折部の離開は認めず、骨癒合を得ることができました。この時点で日常生活上に支障をきたすような可動域制限や歩行時の痛みを認める事はなく、経過は順調でしたのでリハビリを終了しました。

71歳の男性です。 右膝の痛みを訴えて来院されました。

5日前につまずいて前方に倒れた際に膝前面をついて受傷されました。

上の写真は初診時の外観です。右膝関節の前面に腫脹を認めますが、擦過傷は認めませんでした。また、膝関節の可動域を確認しましたが、深屈曲が可能でした。圧痛は膝蓋骨の中央付近に認めましたが、疼痛性の跛行はありませんでした。

レントゲン写真を撮影したところ、側面の画像(左の写真)と膝蓋骨の軸斜像(右の写真)で膝蓋骨の骨折を認めました。(赤矢印の部分)骨折部は離開を認めていない上、歩行もしゃがみ込みも可能なくらいの状況だったので、膝関節装具で経過をみることにしました。

上の写真は初診から5週間後のレントゲン写真です。側面像(左の写真)と軸斜像(右の写真)ともに初診時にあった骨折線が不明瞭となり骨癒合を確認できました。この時点ですでに自転車に乗って来院できるくらい痛みはなく過ごされていました。

59歳の女性です。左膝前面の痛みと歩行時痛を訴えて来院されました。

数時間前に仕事中段差につまずいて、膝前面を床にぶつけて受傷されました。

上の写真は初診時の外観です。左の写真では右膝前面に擦過創を認め、絆創膏処置を受けていますが、痛みと歩行時の違和感は左膝関節に認めました。側面からの観察では膝を曲げて足を上げた状態で脛骨の下方へ落ち込む所見を認めました。圧痛は膝蓋骨中央付近と膝窩部に認めました。

上の写真は側面からみたレントゲン写真です。膝蓋骨の中央付近に骨折線を認めました。(赤矢印の部分)脛骨の後方に骨折線を認めますが(黄色矢印の部分)、同時に膝蓋骨と脛骨が骨折することが稀なので、まずは後十字靱帯の損傷を確認する目的で同日にMRIの撮影を行いました。

上の写真は側面からみたMRI画像です。後十字靱帯の実質部には損傷はなく、脛骨の付着部の骨折を認めました。(黄色丸の部分)膝蓋骨骨折も転位はなく、安定していることが確認できたので後十字靱帯損傷の治療装具を用いて経過観察を行いました。

上の写真は初診時から7週間後のレントゲン写真です。膝蓋骨と脛骨ともに初診時の骨折線は不明瞭となり、骨癒合を確認できました。その後、しばらくはリハビリを継続し3週間後にお仕事に復帰されました。

膝を打ったことをきっかけに痛みが生じて受診されるケースでは、歩いて来院されたり、膝を曲げることも可能であれば一見すると膝関節の打撲と診断されることも多いと思います。しかし、このページでご紹介したように骨片の転位の無い膝蓋骨骨折も同じような症状で来院されることもあり得ます。治療はギプス固定をせずに装具療法で骨癒合を得ることができますので、日常生活上支障をきたすことも少なくできます。ですので打撲と思って経過をみていても痛みが続く場合は、一度整形外科を受診してみてください。

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