「このところ、背中が曲がってきた感じがする」「しばらく測っていないけど、背が縮んだ気がする」といった声は、
デイサービスを利用しておられる方々の中でもよく耳にします。
段々年齢を重ねてくると、脊柱が変形してきて背中が丸くなった状態になりがちです。
いわゆる「円背」「猫背」の状態になります。
気になってしまうこの姿勢ですが、急に背中を伸ばそうとすると、
痛みを伴ったり、全く関係のないところにしわ寄せがきて、かえって痛みが長引いたりすることがあります。
そこで、このページでは、無理なく円背が悪化しないように、予防する運動をご紹介して、
実際に取り組んでおられる方の事例もご覧いただきたいと思います。
姿勢の変化はどうして起こるの?
腰が曲がってきて、円背の状態になるという身体の変化は徐々に起こってきます。
それは、一つの原因だけで起こる物ではありません。
その原因には、以下のようなことが考えられます。
脊柱の直立した姿勢では、生理的なS字カーブが見られます(上図)。
しかし、年を重ねることで、さまざまな要因で脊柱の生理的なS字カーブが前かがみ気味のCカーブに変わります。
このような変化は、どういった原因で起こるのかと言いますと、いくつかの要因が挙げられます。
1.椎体の脆弱化、椎間板の変性
高齢になると、骨自体の強度が徐々に弱くなってきます。
その原因には骨粗鬆症があります。
脊柱を構成する一つの椎体はある程度厚みを持って強度を保っていますが、
骨粗鬆症によって脆弱となった椎体は、前方の壁がつぶれてしまいます。
その結果として、脊柱の生理的なS字カーブが失われ、C字型に彎曲します。
また、椎体の間を埋めるクッションのような役割を果たす椎間板も加齢によって変性が生じてきます。
変性した椎間板はまるでクッションがきかなくなったようになり、先に述べた崩れた椎体と相まって、
脊柱全体の生理的湾曲が変化することになります。
上の図のように、一つの椎体の形が崩れると、他の椎体にも、より負荷がかかってしまいます。
実際の患者さんのレントゲン写真を見てみると、骨粗鬆症を基盤として、椎体が徐々に潰れてしまう様子がわかります。
このように、数か月の間で形が変わる例もあれば、数週間で変わる場合もあります。
姿勢を少しでもよく保つには、骨を強くするという治療も必要になってきます。
2.体幹を支える筋力が弱くなる
年齢を重ねるにつれ、筋力自体は徐々に落ちてきます。
脊柱を支える筋力も例外ではありません。
脊柱を支える端にはたらく筋肉群は、脊柱のすぐそばに沿って走っているもののほか、
腹筋のように脊柱から離れて支える筋肉があります。
上の図にもあるように、筋力がある程度保たれていると、両者のバランスが良い状態でいられます。
しかし、筋力が低下してくると、そのバランスが崩れ始め、脊柱を支える力が弱くなってきます。
その結果として、元の姿勢が保てなくなり、円背姿勢に近くなってきます。
姿勢の変化はどうして起こるの?
高齢になってくると、自然と前かがみ姿勢になってしまいます。
でも、この姿勢はバランスがとれる好都合な姿勢ともいえます。
高齢になると、先に述べた姿勢の変化によって後ろに重心がかかりがちになります。
すると、後ろへ倒れていかないように自然と前に身体を傾けることで、立位姿勢を保つことになります。
このように、円背姿勢は立位のバランスをとるために生じた結果でもあります。
そこで、無理に背中を伸ばそうとすると、かえって身体を傷めることになりますので、注意が必要です。
そこで、今後姿勢がさらに悪化しないように意識を持っていただく運動をご紹介したいと思います。
姿勢の変化はどうして起こるの?
姿勢を保つのに大切とされる筋肉群は上の絵のようなものがあります。
脊柱を支える体幹筋のほかに、肩甲骨を脊柱に引き寄せる筋肉や、肩甲骨を前後左右に動かす筋肉も大切になってきます。
また、ハムストリングは下腿の骨と骨盤とにまたがって走っているので、姿勢にも関与しています。
では、どういう運動が良いのかといいますと・・・、
1.身体を支える筋肉群をストレッチすることから始めましょう
肩・腰背部
https://www.youtube.com/watch?v=Pnr5x-U94es
上の動画にあるように、身体を支える脊柱周辺の筋群をストレッチします。
同時に、肩周りの筋肉群もストレッチすることで、背中を伸ばす意識が生まれます。
膝裏
https://www.youtube.com/watch?v=chfohSujnOY
下肢のストレッチは、一見姿勢には影響がないように思えますが、太ももの筋肉は骨盤につながっているので、膝の裏を伸ばすストレッチは、腰や骨盤をのばすためには大切です。
肩甲骨
https://www.youtube.com/watch?v=iF7eu_f-fh0
上の動画はストレッチではなくて、肩甲骨を動かすイメージをもって、肩関節の可動域を広げるための運動です。
背筋を伸ばして、肩甲骨を脊柱に寄せるような運動になります。
2.背筋を伸ばすイメージを持ちましょう
普段の姿勢から少しだけ背中を伸ばすだけでも、気持ちがシャキっとしますね?
でも、どういうポイントで背中を伸ばせばいいのでしょうか?
円背姿勢から、背筋を伸ばす時のポイント
上の写真は、実際に運動しておられる利用者さんのものです。
まずは、意識的に背中を丸めて、脊柱起立筋群をストレッチします。
両手には、棒を持っておられます。
次に、その棒を持ったまま、肘を張って腕を上げていきます。
同時に、背筋を伸ばすように意識していきます。
この際に、下腹部(赤矢印の部分)に力を入れる意識を持って、背筋を伸ばします。
バランスボールに乗って、棒体操をします。
棒体操は、通常は椅子に座って行います。
さらにレベルアップさせるにはバランスボールに乗って、棒体操を行います。
上の写真にもあるように、肘を伸ばして棒を上げていくことで、肩甲骨が上方へ動いていきます。
下腹部に力を入れることで、腹圧を高めることになり、体幹を支える筋力トレーニングにもなります。
上の写真に、棒を水平に持っているときのものです。
肩甲骨の輪郭がはっきりとでていますが、腕を上げることで、肩甲骨も上方へ上がっていき、
さらに、胸を張るような動作を行うと、肩甲骨が脊柱の方へ引き寄せられます。
以上のようなポイントを意識していただくと、円背姿勢の予防につながると思います。
3.肩甲骨周囲筋と体幹筋を鍛えてさらにパワーアップ
マシントレーニング
https://www.youtube.com/watch?v=kPZKbmR9cEA
シーテッド・ロウというマシーントレーニングです。
肘と肩甲骨の動きを意識しながらバーを手前に引き寄せます。
錘の負荷がかかっているので、肩甲骨周囲筋の筋力アップになるとともに、肩甲骨を大きく動かすので、肩コリ予防の効果もあります。
この動きを行うと、自然と背筋が伸びるようになります。
注意点としては、身体が左右に傾いてしまったり、身体を後ろに倒して引っ張ったりしないようにしましょう。
チューブトレーニング
https://www.youtube.com/watch?v=S7QPnEZlCJ0
マシーンを使わなくても、チューブを使う事で、肩甲骨周囲の筋肉のトレーニングができます。
ゴムチューブを柱などに引っ掛けて、ボートを漕ぐような要領でチューブを手前に引っ張ります。
それは、マシーントレーニングのときと同様に、身体が後ろへ倒れないように注意が必要です。
実際に機能訓練をしておられる方の様子です
デイサービスきずなをご利用いただいている方の中から、
主に姿勢の悪化を予防することに重点を置いて取り組んでおられる方々の様子をご紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=EJmvM2ZqWuo
以前から、円背姿勢に悩んでおられて、今後も悪化しないように運動をしていこうという事で、取り組んでおられます。
背中を伸ばすことを意識しながら、棒体操を行っていただきます。
見た目よりは、きつい運動です。
https://www.youtube.com/watch?v=WtBNCPNvRv0
この方は、見た目ではさほど円背姿勢が気にならないのですが、
なるべく今の姿勢が悪化しないように取り組んでおられます。
ボールの上でバランスをとるだけでも不安定であったので、
壁にボールが支えられるような位置で体操をおこなっていただいています。
以上のように、運動をしていただくことで、姿勢の変化が期待できますが、
それは急に変化が起こるというわけではありません。
この運動で大切なことは、「常に姿勢を意識する」事です。
ご紹介した運動の中から、ご自身でできそうなことを始めていただいて、
慣れてきたら運動量を徐々に増やしてみてください。
そうしていくことで、姿勢を意識することにつながり、結果的に円背の悪化防止ができます。
一緒に運動を頑張っていきましょう!