肩甲上神経麻痺(けんこうじょうしんけいまひ)

肩を動かしづらくなったり、肩をぶつけて怪我をしたわけでもないのに腕が上がりにくくなる原因には、

腱板損傷が多いのですが、
なかには、神経が麻痺して起こるものもあります。

肩周辺に起こる神経麻痺の一つに「肩甲上神経麻痺」というものがあります。

このページでは、この疾患の病態について御覧いただきたいと思います。

上の図は左の肩を後ろから見た図です。

肩甲骨の周囲の神経と、血管の走行を示しています。

頚椎の側面から出た神経の束は首の後ろを通り、肩甲骨に向かって枝を伸ばします。

肩甲上神経は上の図の水色の丸で示した部分で圧迫を受け安くなります。

肩甲上神経は肩の動きで大切な役割をする棘上筋と棘下筋を支配しています。

上の水色の丸の部分で神経が圧迫を受けると、両方の筋肉が痩せてきます。

一方、下の丸の部分で圧迫を受けると棘下筋だけが痩せてきます。

このように圧迫される部分によって筋肉が痩せる部分も違ってきます。

特にバレーボールや、野球など腕を上げる事を繰り返すスポーツでは、
肩甲上神経が丸の部分で引っ張られ、なおかつ周囲の組織によって圧迫を受けるので

この疾患が多く出ると言われています。

また、ガングリオンによって神経が圧迫されることで、麻痺症状が出る場合もあります。

なかでも、肩関節を構成する臼蓋唇の一部が損傷してガングリオンができることがあり、
そういった場合にはMRIでより詳しく肩関節周囲の画像を撮ることで発見することができます。

症状としては、腕を上げる動作や、腕を外に広げる動作(外旋)の力が弱くなるなどの、
肩の動作の力の入りにくさが出てきます。

では、以下で実際の患者さんの事例を御紹介します。

〜症例〜

23歳の男性です。

左肩甲骨部の痛みと肩の脱力を訴えて来院されれました。

2週間ぐらい前に、肩の力の入りにくさに気がついておられました。

初診時の外観を見てみると、右肩の棘下筋(赤矢印で示した部分)が萎縮していました。

この所見から、肩甲上神経が水色の丸で囲んだ部分で圧迫されていることを疑いました。

患部のエコー検査をしたところ、黄色の矢印で示したところに球状の組織が見えました。

中が黒く写っているので 、液状の成分が満たされていると考え、ガングリオンを疑いました。

その場所は、棘下筋の深部に位置していました。

患部の状態をもっと詳しく見るために、MRIを撮影してみました。

すると、やはり肩甲骨のすぐそばで、棘下筋の深部でガングリオンと思われる画像を認めました。

また、別の角度から見てみると、関節に近いところでの発生であったので、

肩関節臼蓋の傍でできたガングリオンであると思われました。

治療としては、注射針を用いて、ガングリオンを穿刺して、つぶすような処置をしました。

すると、ガングリオンの大きさが小さくなって、鈍痛は消失しました。

その後、経過を見ていくと、9ヶ月後の時点では、筋委縮もなくなりました。

肩関節を外へ動かす外旋動作も、筋力の低下もなくしっかりとできておられました。

痛みも消失していました。

肩甲上神経麻痺は、基本的に経過を見るだけで改善がみられる疾患です。

ですので、スポーツでの受傷でも、安静と、筋力改善のリハビリを行うことで回復してきます。

また、ガングリオンが原因である場合でも、ガングリオンが自然と小さくなるケースがほとんどなので、
この場合も、経過を見ることで回復してきます。

肩が上がらないとか、脱力感があるという場合、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めします。

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