踵部脂肪褥& Fat pad syndrome(ランニングを始め出したら 踵が痛くなってきた!)

踵の痛みについては、色々なページで疾患を取り上げてきましたが、
今回は、骨や腱以外の踵部の脂肪体が原因で生じる疾患について御紹介します。

上の図の赤丸で囲んだ付近の脂肪組織の変化によって生じる疾患は大きく分けて2つあります。
1つ目は「踵部脂肪褥(しょうぶしぼうじょく)」という疾患で、
2つ目は「Fat pad syndrome」です。

まずは、踵部にある脂肪体の構造についてご説明したいと思います。

踵部脂肪体の構造

踵の部分は、以下のような構造になって、衝撃吸収ができる状態になっています。

踵骨の下の部分は、足底腱膜が付着していて、さらにその下の皮膚との間には踵部脂肪体があります。

それをさらに詳しく見てみると、「室隔壁」と呼ばれる小さな部屋と、

圧を緩衝する脂肪組織である「圧緩衝系(蜂巣組織)」が存在します。

室隔壁の中には、脂肪組織が満たされていて、その間を血管が細かく走っています。

この構造により、踵の皮膚のすぐ上は、ショック吸収に役立つ構造になっています。

踵部脂肪体の機能

下の図は、歩行時の踵接地から足指が離れるまでの一連の動きを示しています。

踵に圧がかかっている状態では、踵部脂肪体は衝撃吸収に働いています。

また、足底全体にスムーズに体重移動ができるように足底の力学的安定性にも関与しています。

以上のように、踵部脂肪体は繰り返される衝撃という機械的刺激を受け続けます。

その結果、踵部脂肪褥やFat pad syndromeのような疾患が発生することになります。

では、まず踵部脂肪褥についてご説明します。

踵部脂肪褥

踵部脂肪褥は踵部脂肪体の硬度低下をきたした状態のことを言います。

もともと踵部脂肪体部分がもっている弾力性が加齢などによって低下してしまい、
踵骨下縁が直接接地してしまうことによって痛みが生じる疾患です。

一般では、踵部脂肪褥は以下のように定義されています。

1、荷重時に踵骨隆起下縁部に痛みを生じ、同部位に圧痛がある状態。
2、踵骨隆起下縁部脂肪体の硬度低下により、踵骨隆起下縁部が容易に触知できる状態。

では、以下で、実際に当院で踵部脂肪褥と診断された患者さんの歩き方を見ていただきたいと思います。

上の動画を御覧いただくと、右足は踵がしっかりついていて、体重移動ができているのに対して、
左足は足底全体で接地するようなぺたぺたとした歩き方になっています。

つまり、踵をつくと衝撃吸収ができないため、こういった歩き方になってしまいます。

治療方法

下の写真はクッション性を高める目的で当院で使っている「ジェルヒールカップ」です。

市販品ですので、医療機関で処方してもらう必要はありません。

衝撃吸収能力の落ちてしまった踵部の保護作用と支持性を高める効果があります。

では、つぎはFat pad syndromeについてご説明したいと思います。

Fat pad syndrome

Fat pad syndromeは、踵に中・高度のインパクトがかかる運動を始めたばかりの初心者の方に

多くみられる症候群であると言われています。

上の図は、床からの衝撃を受けた脂肪体の状態を表しています。

繰り返し衝撃がかかり続けると、脂肪組織の力学的な安定性が損なわれてきて、
軟らかい脂肪体と比較的硬い踵骨との間で不安定性が生じ、
剪断力が発生してこういった症状が出るのではないかと考えられています。

当院でFat pad syndromeと診断した方では、
ランニングを毎週40km程度走っておられた方が靴を新しくしてから踵が痛くなったという例がありました。

新しい靴は、前の靴よりも軽いという点では優れていたのですが、
衝撃吸収性には劣っていたので、こういった症状が出てきたのだとわかりました。

ですので、「ジェルヒールカップ」を靴に入れることで、フルマラソンも無事完走されました。

Fat pad syndromeの治療法

治療法は、先に述べたジェルヒールカップの他に、テーピングも有効です。

当院では、ジェルヒールカップのクッション性を活かしつつ、

さらに外枠に硬い素材を加え、さらに支持性も向上するように工夫しています。

また、テーピングの目的は、踵部脂肪体の支持性を高めるため、踵全体を保護する事です。

それぞれの方法を単体で使用することもありますが、

双方の良いところを活かして両方同時に使用することもあります。

踵部脂肪褥&Fat pad syndromeと、

足底腱膜炎との鑑別

踵の痛みで主に考えられる疾患の鑑別点を以下の表にまとめました。

踵骨脂肪褥はその発生年齢が他の疾患に比べて比較的高いことが特徴としてあげられます。

また、脂肪体の硬度も低下しているので、踵そのものの弾力性が失われているので、

他の疾患と見分けがつきやすいことも特徴です。

Fat pad syndromeと足底腱膜炎は発生年齢も似ていて、脂肪体の硬度も変わりありません。

しかし、足底腱膜炎は足底腱膜の踵骨付着部に圧痛あるのに対し、
Fat pad syndromeは踵部脂肪体の全周に圧痛があることが特徴です。

また、処置の内容も若干違ってきます。

ということで、一口に運動で生じる踵の痛みと言っても、
よく観察してみると、違いがあるということがわかります。

それぞれの症状によって適切な処置をしていくことが症状の緩和につながります。

また、なかないすっきりしない踵の痛みがある場合には、
足底腱膜炎だと決めつけずに、他の疾患も疑ってみてください!

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