整形外科を受診される方の中で、足のことでお悩みの方もたくさんいらっしゃいます。
特に、外反母趾は以前から足の指の変形について悩んでおられて、インターネットで検索し、
当院へご来院になられる方も数多くいらっしゃいます。
そういった方々の訴えとしては、
① 以前から、外反母趾に悩んでいて、自分で色々試してみたが、結局痛くてどうしたらいいか相談に来た。
② 外反母趾そのものはそんなに痛くないが、靴をはくと、痛くてたまらないので、どうしたらいいか相談に来た。
③ 普段は痛くないが、スポーツをするときに足が痛くなるので、どうしたらいいか相談に来た。
などがあるように思います。
また、当院に中足骨骨頭部痛を訴えて来院され、原因を突き止めたところ、
外反母趾が由来で痛みが出ていたという事も多く見られます。
このように、外反母趾は形だけの問題にとどまらず、靴も含めた足全体の問題としてとらえる必要があります。
このページでは、外反母趾はどういった疾患であるのか、
また、原因は何か、対処法はどうするのかなどを中心にご紹介していきたいと思います。
外反母趾とはこんなふうになっています
見ために母趾が変形しているのは、すぐにわかっていただけると思います。
では、足の構造上で、どういったことが起こっているのでしょうか?
以下でご説明します。
正常な足の場合では、母趾の外反角度は左の正常足の図のように、さほど大きくありません。
母趾と第2趾の角度も広がりは大きくありません。
ところが、外反母趾の場合では、外反角度が大きくなるとともに、母趾と第2趾間の角度も大きくなります。
すなわち、足の横アーチが広がってしまい、いわゆる開帳足という状態の足になります。
このように、足の形状が変わるのは、母趾を取り巻く筋肉群のアンバランスにも原因があります。
外反角度が強くなると、より母趾内転筋の張力が強くなり、相対する母趾外転筋は緊張を強いられて、働きが弱くなります。
そして、外反角度が強くなった結果、その状態で靴をはくと、
母趾の変形している所と靴の内側が当たり、皮膚の下で粘液包ができてしまいます。
また、別の角度から見た図では、種子骨は第1中足骨の下に収まっています。
しかし、外反母趾の状態では、種子骨の位置は外反角度が大きくなるとともに、内側へ引っ張られてずれてきます。
外反母趾と開帳足の関係
開帳足とは、足の横アーチが広がったような状態になっている足のことを言います。
足の外反母趾が生じている足では、単に母指の実が変形しているのではなく、
足全体が何らかの形の変形を生じていることになります。
なかでも、外反母趾との関係が深いものは、上の図で示した、3つの角度です。
まずは、赤線で示した外反母趾角は、その角度によって、3つのグレードに分けられています。
それと同時に、第1中足骨と、第2中足骨の間も、広がってくるので、青線で示した第1、第2中足骨角も重要になってきます。
このように足が横に広がって行くことで、第1中足骨と第5中足骨も扇状に広がっていくことになります。
その広がり度を見たものが緑の線でしめした、第1・5中足骨角です。
整形外科の外来では、外反母趾の診察時のレントゲン撮影の際にこういった点に注目して外反母趾の重症度を見ています。
では、外反母趾に伴って生じる足の弊害とはどんな疾患があるのでしょうか?
一つ目は「バニオン」と呼ばれる皮下粘液包です。
上の写真の赤丸で囲んだ部分の皮膚が赤くはれているのが確認できます。
外反母趾によく見られる症状の一つです。
また、外反母趾の状態では、他の指にも影響を及ぼし、バニオンを形成する場合が多く見られます。
上の写真にあるように第2趾や第5趾のMTP関節(赤丸で囲んだところ)に多く見られます。
外反母趾と中足骨頭部痛の関係
2つ目は、通常であれば足の接地時に直圧がかかりにくい第2中足骨頭が、
開帳足になることによって地面に当たり痛くなり、皮膚が硬くなってくるといった症状が出てきます。
上の写真は外反母趾で悩んで来院された方の足の裏です。
赤色矢印で示した部分は中足骨頭部です。
このように、胼胝(べんち)と呼ばれるいわゆるタコができてしまうのは、
外反母趾によって歩行時の接地面が通常と変わってしまっているからです。
その発生のメカニズムは・・・。
① 外反母趾になると、母趾側で蹴りだしをすることができず、従来の体重移動ができなくなります。
そうすることで、第2・3中足骨頭を通って蹴りだすことになります。
② 開帳足になっているため、横アーチが崩れて、体重が第2・3中足骨頭にかかりまず。
その結果、従来はあまり体重がかからないところに負担がかかります。
③ 従来は母趾で蹴りだしをするところが外反母趾によってできなくなっているので、第2・3MTP関節で蹴りだすことになります。
以上のようなことから、中足骨頭部痛が外反母趾の患者さんによく見られるのです。
レントゲン診断その1
レントゲン写真を撮ると、外反母趾の重症度がわかります。
しかし、単にレントゲン写真を撮るだけではなく、
普段の患者さんの足の状態を再現してみないことにはわからないこともあります。
上の左側の写真ははだしの状態で体重をかけて撮ったレントゲン写真です。
両側の外反母趾があることがわかったのですが、この時点では左足の外反母趾の方が重症度が高いように見えます。
しかし、普段の足の状態を見るには靴を履いてみないとわかりません。
そこで、靴を履いていただいてレントゲンを撮ってみると、
右側の外反母趾角が大きく変化し、関節部で亜脱臼を生じていることがわかりました。
このようにすることで、外反母趾の発生原因が靴によるものだという事を治療者側も、患者さん側もはっきりと確認できます。
レントゲン診断その2
別の角度からレントゲンを撮ることで、重症度分類ができます。
母趾を下の写真の点線部分で輪切りにした状態でレントゲンをとってみます。
第1中足骨の下に、内側種子骨と外側種子骨があります。
外反母趾の重症度が高くなるにつれ、それぞれの種子骨は位置がずれてきます。
このように分類することで、手術適応か否か判断する材料になります。
運動療法
運動療法は、足底筋のトレーニングをすることが目的です。
それは足底部のアーチが低下していることが原因で、外反母趾になり、中足骨頭部痛や、胼胝による痛みがでてくるからです。
トレーニングによって、足底筋を鍛えて、使えていない足裏の筋肉を動かすようにします。
以下のような方法がありますので、ご参考になさってください。
足底筋のトレーニング
タオルを手繰り寄せて、足底筋を鍛えるトレーニングです。
しっかりタオルを掴み、引き寄せ、タオルを離す。慣れている方はタオルの先端におもしをのせて負荷をかけて行います。
母趾拘縮予防運動
外反母趾で、母趾が外反することによって母趾外転筋が引っ張られてしまいます。変形が
足じゃんけん体操
足底筋のエクササイズの中でも、この運動は場所も道具も必要ありません。時間が空いたときに、手軽に行えるエクササイズです。
足底筋のセルフマッサージ
足底筋の疲れを解消するために、ゴルフボールで足底筋のマッサージを行うと、疲労感は軽減されます。
足底のアーチの低下があるかたや外反母趾の方におすすめです!
以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。
30代の女性です。
両母趾MTP関節の痛みを訴えて来院されました。
以前より、外反変形があり、1年前から痛みが強くなってきたそうです。
履く靴によって、痛みが強くなったり、弱くなったりするそうです。
おしゃれな靴を履きたいけれど、靴を選べないとおっしゃっていました。
左のレントゲンは素足のときのものです。
両側とも外反母趾が認められます。
受診当日は、あまり痛くない靴を履いてこられたそうですが、
実際に靴を履いた状態で、レントゲン撮影を行いました。
痛みはましだとおっしゃっていましたが、
このつくを履いていても、外反角が大きく出ていることがわかります。
後日、履きたいけれど、痛くて履けない靴を持ってきていただいて、写真を撮ってみました。
赤丸印で囲んだ部分が締め付けられる状態になるため、
痛みが強くて長く歩けないとのことでした。
ヒールの高い靴や、足先の細い靴は控えていただくように、
指導させていただきました。
73歳の女性です。
両母趾MTP関節の痛みと、両中足骨頭部痛を訴えて来院されました。
30年前から、両母趾MTP関節部に痛みがあったそうです。
6年前より、母趾の外反変形が強くなってきたそうです。
左の写真は、初診時のものです。
左右ともに外反母趾が認められます。
両母趾MTP関節の側面が赤くなっていることから、
その部位に靴が当たっていることがわかります。
左の写真は足底部の外観写真です。
赤色矢印で示した部分に胼胝ができ、
この部分に体重がかかると痛みがでるそうです。
左の写真は立位での外観です。
両示趾が母趾に乗ってしまっていることがわかります。
左のレントゲンは初診時のものです。
外反変形が両母趾にみられ、
レントゲンでも母趾と示指の重なりが確認できます。
靴を履いた状態で、レントゲンを撮ってみると、
外反角度は増加していることがわかりました。
この方には、中足骨頭部の痛みをとるためにクッションをあてがう処置を行い、夜間時に、母趾と示趾が重ならないような外反母趾サポーターを処方しました。
また合わせて、運動療法の指導も行いました。
8歳の女の子です。
半年前、家族が変形に気がつき、痛みはありませんでしたが、
変形が進まないようにと思って来院されました。
左のレントゲンは初診時のものです。
両母趾に軽度の外反変形が見られます。
現在は、足底部なども含め、痛みは全くありません。
左の外観写真は、初診時のものです。
外観でも、両母趾に外反変形と、開帳足が見られます。
今回の治療の目的は、外反変形が進行しないようにするという事でしたので、
運動療法や、履物などの生活指導などや、足底板などの処方を行いました。
また、夜間就寝時に使用する、
外反変形を防止するための外反母趾装具を合わせて処方しました。
外反母趾によって痛みがあるとか、母趾の変形が気になるなど、外反母趾による悩みはさまざまですが、
当院では、患者さんの生活環境などに応じて、治療法や対処法をご一緒に考えさせていただきたいと思っております。
外反母趾でお悩みの方は、お気軽にご相談ください!