尺骨単独骨折

このページは尺骨単独骨折についての特徴や当院でおこなっている治療法について御紹介します。

尺骨単独骨折は前腕の骨折の中でも、比較的少ない骨折です。

まず、尺骨は前腕のどこに位置するかを説明します。
尺骨は下の図のように橈骨と並んで位置します。

上の写真のように尺骨が手関節に近いところで単独に骨折することは橈骨の単独骨折に比べて

比較的少ないとされています。

尺骨単独骨折がどのようにして発症するかについて御説明させていただきます。

①骨の形状的な原因

尺骨の構造は下の絵にある通りです。

Aが手首側で、Eが肘側になります。

Aの部分では手首の関節を構成するので、ねじり動作がしやすいように丸い形状になっています。

B→C→D→Eと肘の方に移行するにつれ、断面は徐々に丸い形状から三角の形状に変わり、
Eの部分では肘関節を構成するため、非常に厚く、頑丈な作りになっていきます。

しかし、BやCの領域では、薄く、細い形状をしているので、最もストレスに弱い領域であると考えられます。

上記のBやCの領域での骨折は他の部位に比べて完全に骨癒合が得られるまでに長期間を要します。

尺骨単独骨折の受傷機転

尺骨単独骨折は転んで手をついたり、前腕の外側を直接蹴られて受傷することが多いようです。特に、高齢の方の場合、骨が弱くなっているので、単純な折れ方ではなくて、複雑な折れ方をする場合があります。

上の写真にあるように手をついて、前腕が内側に捻じれる力(①回内)が働いて、尚且つ、手関節が背屈し、尺骨側に倒れるような力②が加わることにより、尺骨の遠位部に軸圧と剪断力③がかかって、骨折すると推察されています。

尺骨単独骨折の分類

以下が、尺骨単独骨折を分類したものです。

Type1は手関節に骨折線が及ばない関節外骨折です。

Type2と3は、尺骨茎状突起を含む手関節内に骨折線が及ぶものです。

Type4は粉砕型の関節内骨折です。

今回の症例はType1の骨折型だったのでギプスを用いた固定療法が適応できると考えました。

尺骨単独骨折に対しておこなった固定療法

上の写真にあるように尺骨の単独骨折に対してギプス固定をおこないました。

一般に、尺骨単独骨折は骨癒合を得るまでに4〜6週間を要するといわれています。

固定の際、骨折部の安定性を得るために、手関節と肘関節を含んだ固定をする必要があります。

しかし、このような固定を肘関節に長期間おこなうと、後に関節拘縮を招くことになります。
ですので、下の図のように肘関節が屈伸できて、尚且つ骨折部の固定を継続できるギプスがこちらです。

このギプス固定療法は、日本柔道整復接骨医学会学術大会プログラム抄録集にある内容を参考とさせていただきました。

上の写真にあるように前腕を捻じる動作に制限はかかりますが、肘関節の屈伸がある程度可能なので、日常生活への影響が少なく済みます。

以下で実際に固定療法をおこなった患者さんの経過を御紹介します。

症例1  60歳女性です。左手首の痛みを訴えて来院されました。受診日当日の朝、介護の仕事中に、利用者さんに左前腕を蹴られたのち、左手首の腫れと痛みが生じました。

初診時のレントゲン写真では尺骨の遠位部に骨折線を認めました。しかし、骨折部の転位は

ほとんど見られなかったので、ギプス固定を手関節から上腕部分までおこないました。

上の写真は初診から3週間が経過したものです。

この時点で骨折部は安定していることが分かったので、肘関節の屈伸が可能となるようなギプスに

切り替えました。

上の写真は約2か月経過したものです。

この時点で骨折部には仮骨形成がみられていました。

尺骨単独骨折は受傷時に皮下出血が比較的乏しいため、手関節の捻挫、もしくは打撲であると

患者さんが自己判断されるケースも見られます。

手関節もしくは前腕の痛みが長引く場合は本骨折も考えられるので、

そういった場合は整形外科への受診をお勧めします。

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